種の見る景色

種とは過去を受け継ぐものであり、
未来の設計図でもある。

なにも植物の話だけではない、
私だって、
過去を受け継ぎ未来を夢見る一種の「種」だ。

そう、私はいつだって夢を見ている。

では、種も夢を見ているのだろうか?

…そう言うと、
大抵の人は「そんな訳無いだろう」と笑う。

我が家に帰って来るのは、
もう3年ぶりになるだろうか。

埃をかぶった引き出しの奥から、
懐かしいものが出てきた。

私がまだ若かった頃、
とある酒場の主人から譲って貰った雫型の種だ。
何度か土に植えてみた事もあるのだが、咲かない。

私は、この種を捨てずに大事にしていた。
まだ咲く時ではないのだ、と思っていたからだ。

もう咲く事は無いのかもしれない。

この部屋の空気と私の思い出に色塗られながら、
ずっと夢を見続けているのだろう。

この種をもう一度植えてみようと思う。
今晩、私の枕元に。

長い間、
種が夢見てきた景色を見せて貰おう。

2015年10月発表

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