泡沫〜うたかた〜
初めての街を訪れた時には、
必ず古そうな酒場に寄る事にしている。
良い話、悪い話、
大抵は全てがそこに集まっているからだ。
そして、大抵は宿も付いている。
天文学者だという老人が、
私の目の前に座って語り始めた。
宇宙とは、
一種の泡のようなものだという。
宇宙は、私達からみれば
想像を遥かに超える程大きい。
しかし、宇宙は泡であると。
もっと大きな世界の住人から見れば
ただの泡沫。
そう、「うたかた」なのだ。
私の手に収まる小さなグラスの中で、
生まれては消えてゆく無数の小さな泡。
この泡も、
もっと小さな世界の住人から見れば
「宇宙」なのだろう。
…夜も更けてきた。
あの老人も、いつの間にか帰ったようだ。
部屋に戻ってからもう暫く、
私にとっての「泡沫」の中にある小さな世界を
じっくり覗いてみようと思う。
2016年6月発表